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技術情報

PVA砥石について

 PVA砥石は弾性砥石の代名詞となっている。PVA砥石も弾性砥石も日本特殊研砥が生み出した言葉である。
 PVA砥石は、1953年に特許庁から注目発明、並びに、特許庁長官賞に輝く弾性研磨材の特許を取得(特公昭27-3793)、弾性砥石の礎を築いた。

 砥石を構成している要素は砥粒、結合材、気孔の3つである。
 日本特殊研砥では、砥粒は主に炭化珪素を使用しており、粒度はJISF36(粗)〜#1000(細)が主流である。結合材は文字どおりPVA(polyvinylalcohol)を使用している。
 PVAは水溶性ポリマーなので、これを架橋させて水に不溶化させたものを結合材としており、正しくは、PVAの部分ホルマ−ル化物である。PVAを結合材とすることで、弾性が得られる。

 PVAを結合材に使用するだけでは、満足する弾性砥石は得られない。気孔が必要である。気孔はクッション、つまり、弾性を与えることにも寄与している。また、気孔は研磨の際に発生する熱を吸収する役目と、研磨時の摩擦抵抗をあげることなく、適度に摩耗させる効果がある。
 これにより、自生作用が起こり目詰まりせず、良好な研磨性能を維持できる。

 PVA砥石は気孔形成剤に泡を使用していることが特徴である。
 PVAに砥粒、ホルマリンと酸を加え加熱、固化(ホルマール化反応)させても気孔はできるが、非常に微細で気孔率が低く砥石として適さない。そこで、気孔形成剤または気孔助剤が必要となる。

 PVAを結合材とする砥石の製法は、気孔形成法の違いで分類した以下が周知となっている。
  (1)機械的攪拌によるもの
  (2)発泡法によるもの
  (3)澱粉等溶出可能な物質を用いるもの
  (4)泡塊を用いるもの
 (4)の泡塊を気孔形成剤に用いているのが、日本特殊研砥 初代社長考案による、いわゆる「泡法」である。

 泡法と機械的攪拌によるものや発泡法との違いは、泡の質にある。
 機械的攪拌は泡塊を混ぜ合わせるのではなく、結合材そのもの、或いは、結合材に界面活性剤等を添加したものを激しく攪拌させて得るもので、泡の大きさをコントロ−ルできない。発泡法は発泡剤により気泡の大きさをある程度変化させることはできるが、高連続気孔を有したものが得られない。
 また、溶出法はまさに高連続気孔率となるが、100μm以上の大きな気泡を低コストで製造できないという各々欠点がある。

 泡法は砥石に独特の品質特性を付与している。
 独特の品質特性とは、気孔の大きさと連続気孔率の割合である。
 PVA砥石の気孔の大きさはおよそ100μm〜400μmであり、高連続気孔率になるように泡液を調整している。骨格をなす結合材自体にも気孔を生成するようにしており、この部分は50μm以下の大きさに調整している。PVA砥石に使用する砥粒は比較的大きな径であり、気孔の大きさもこれに応じた大きさが必要となる。高連続気孔が必要な理由は、研磨時に必要とする砥石性能だけでなく、製造上欠かせない条件だからである。連続気孔が不足すると、化学反応後の洗浄やその後の乾燥工程に不具合を生じる。
 つまり、「常に均一な品質の製品を製造して 顧客の要望にこたえる」という我が社が掲げる品質方針を満たせないのである。

 この高連続気孔率を形成させるのも泡塊の場合は特別な技術が要る。
 泡と泡は各々独立させて泡と泡との間に砥粒を保持した結合材(PVA)を介在させることが、均一な砥石を得るための最低必須条件である。
しかしこれだけでは、満足すべく連続気孔率が得られない。
 図1にPVA砥石のSEM写真を示す。
 この写真のように、気孔と気孔は結合材を介して独立しており、結合材部分の気孔と気孔のつながった小気孔を形成させることによって、連続気孔となり、「常に均一な品質の製品」を生み出す条件が整うのである。
 図2に、化学反応前の泡、結合材、砥粒の状態模式図を示す。図2のAのように、泡と泡とが引っ付かず、砥粒を配した結合材が介在しているようにする必要がある。Bの状態のように、泡と泡とが引っ付くと粗大気泡が発生するのと、泡の近くにあった砥粒が泡の中へ、つまり、気孔の中へ入り込み結合材の砥粒をつかむ力が弱くなってしまうことになる。泡の引っ付く数が多くなるほどこの影響は大きくなり、満足できる砥石は得られない。


図1 PVA砥石(C320 5M3) SEM画像



図2 PVA砥石 化学反応前後の状態 模式図


 泡は生き物に似ている。
 文字どおり儚い命ではあるが、この短い時間の中にも様々な経験、試練があり、この中で生き抜いたものだけが勝ち誇れる運命にある。生まれてから一人前に育ち、世のために貢献するための、つまり、PVA砥石が顧客に満足感を与えるためには様々な工夫と技術が必要である。

 まず、優れた泡を生み出すには、その環境を整えてやらなければならない。優れた泡とは、温度差、砥粒やPVA水溶液との混合・攪拌等に耐えられる力を身につけておくことと、泡の大きさが整っていることである。そのためには、温度、圧力、発泡液原料組成等を厳しく管理する必要がある。

 環境を整備しても生まれたての泡は、弱い泡と強い泡とが入り混ざっており、調整してやらないと使えない。
泡には、中に閉じこめられた空気が窮屈なため、外界へ出たいという本能と、これを阻止しようとする泡膜の力が共存する。中の空気が暴れすぎるとちょっとした外因により破泡してしまう。弱い泡とは、この暴れすぎてすぐにこわれてしまうもので、強い泡はこの逆である。
 弱い泡をなくし強い泡だけに整えることを、我々は整泡と呼んでいる。できたての泡は、小さい径のものから大きい径のものまで様々である。極端に小さい径や大きい径の泡は破泡しやすい弱い泡である。この弱い泡を消して生じた泡膜液を残った泡に吸収させ、より強い泡を生成させるという操作を何度か繰り返して陶太させていくのが整泡工程である。
 小さすぎる泡、大きすぎる泡をなくし、泡の径を整えることが強い泡にしていく段階の指標でもある。整泡は種々パラメ−タで管理している。しかしながら、少しでも目を離すと、壊してやろうとするエントロピーが増大し、手がつけられない状態に陥ってしまう。

 整泡された泡塊には次の試練が待っている。
 ここから先は、新しく泡が生まれることもなく、泡の数は減っていく方向へと進んでいく。泡の数は時間とともに指数関数的に減少する。したがって、整泡後の泡塊の時間管理は品質上重要なファクターと捉えている。
 次に泡が経験するのは、砥粒や強酸、熱いPVA水溶液との出会いである。今まで、泡塊という同じ類の中で育った環境から一転した条件の中で生きていかなければならない。集団ではなく1つ1つ独立した泡となって。
 泡には気孔形成以外にも威力を発揮するものがある。PVA砥石に使用する砥粒の比重は大きく、同じ体積の水の質量の3倍とか4倍もある。これを、PVA水溶液中で沈降させることなく保持させる役目を担っているのが、この泡である。泡の比重は小さく、水の質量のほぼ 1/5 であり、液中にいる時の浮力は大きい。この浮力のおかげで、比重の大きい砥粒、質量大のとりわけ粗い粒度のものでも、沈降させることなく、維持できているのである。
 もし、ここで先ほどの“弱い泡”が存在していたら、砥粒を保持しようとするバランスが崩れて、砥粒が動き出し、ついには混乱を抑えることができなくなってしまう。

 さらに泡は、細かい粒子を引きつける性質がある。この特性を利用した浮遊選鉱は、液中の特定の鉱物を泡に付着させて分離することでよく知られている。鍋物をしていて、アクが浮いてきて集まるのは、アクが泡に吸着されるからである。PVA砥石の場合は、これがマイナス要素として働く。
 泡、砥粒、PVA水溶液を攪拌、混合する際に細かい粒子が存在すると、これらが泡の表面に引っ付き、砥粒とPVAとの接着を阻害することとなる。

 泡はやがて消えていく運命にある。攪拌、混合を終えた時点での好ましい状態は、泡膜が砥粒をおおったPVAと密着していることである。密着が悪いと、泡膜を形成している液体がPVA側に吸収されず気孔側へ入り込み、この力によりPVA中の砥粒が動き接着不良を起こすものと考えている。
 攪拌、混合を終えたあとに化学反応が始まると同時に泡は消えていき、膜を形成していた液はPVAに吸収される。このとき、泡膜表面に付着していた微粒子が存在すると、液の吸収は阻害され、泡とPVAとの密着性が悪くなり上述のような問題を引き起こす。

 PVA砥石の細かい方の粒度が、#1000(平均粒径11.5μm)程度までというのも、このあたりの影響も一因していると考えている。粒度が粗くても泡に付着するものがないわけではない。砥粒に含まれる不純物は往々にして細かい粒子である。
 代表的なものにFree Carbonがある。これら砥粒の不純物の含有量は少なければ少ないほどよい。我々はJISで規定される値よりもはるかに厳しい基準で管理している。

 攪拌混合も泡にとっては難しい関門である。攪拌には必ず空気を巻き込む力が生じる。ましてや、PVA水溶液は起泡性に富むので攪拌時に造った泡とは別の“泡”が生じやすい。ここでできる“泡”は、「アワ」ということばをまとった、PVA砥石にとって有害きわまりない外敵である。この“泡”は、泡を攻撃して強大となり最後まで留まり、せっかく苦労してできたPVA砥石を死に追いやってしまう、百害あって一利無しである。

 本来の泡を消してはいけないので、消泡剤とか減圧とかいった処方が下せない。原料の泡を壊すことなく、有害な“泡”を発生させず、かつ、均一な混合物を得るための攪拌技術をもって対処している。元々、砥粒(固体)とPVA水溶液(液体)の不均一系のものに、さらに、泡という液体でも固体でもないものを均一に混合しようとしているのである。

 混合・攪拌がすむと各々の型枠へ入れられ化学反応へと進む。化学反応が泡にとって最後の戦いでもある。
ホルマール化反応なので、熱がかかる。今までいた環境よりも温度が高い。温度が上がることによって、粘度が下がる、この瞬間が泡にとって最後の難関である。
 今まで、砥粒を沈降させまいと必死にがんばってきたが、ここではなお一層のがんばりが必要となる。これに負けてしまうと今までの苦労がまさに水の泡と化す。
 体は小さいが、自分の重さの何十倍もあるものが上に乗っかってくる。動いている時は加重が分散され苦にならないが、静止している時はこたえる。非常にしんどい状態ではあるが、すぐに、化学反応の開始前の増粘が手を差しのべてくれて楽になる。化学反応はできるだけ緩やかに進めることが、均一を造る上には必要である。けれどもあまりゆっくりしていると泡が持ちこたえられず元も子もなくなる。ここの妥協点が化学反応条件のポイントでもある。

 やがて、化学反応が終わり砥石の原形ができる。泡は気孔という砥石の3要素の1つとして姿を変える。
 あとは、顧客に合わせた硬度、形に合わせて製品となる。

 いよいよ、待ちに待った旅立ちである。
 生まれた時から外界へ出たい、出たいと思っていた泡の望みがかなうのである。一塊の泡に生まれて、様々な条件の中で育み、連続気孔という砥石になくてはならない大切な要素を持った成長した姿となって。
 砥石を使用した顧客から満足すべき評価が得られた時に、泡としての責務を終え全うする。

 我々はここで、安心はしていられない。
 なぜなら、我が社が掲げる品質方針「常に均一な品質……」を造り続けていかねばならないからである。
 これは大変なことではあるが、顧客の確固たる信頼を得るためには、我々製造スタッフが、品質方針理念に基づく不動の力を身につけ、実行していくしかないと考えている。


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